”ミラクルレスター”復活を遂げた原点回帰

 おとぎ話には、まだ続きがあった。レスター・シティが4月4日のサンダーランド戦に2―0で勝利し、公式戦6連勝を飾った。昨シーズン、奇跡と言われたプレミア・リーグ制覇を成し遂げ、ディフェンディング・チャンピオンとして臨んだ今シーズン、低迷して残留争いへと巻き込まれ、2月末には昨シーズンはFIFA最優秀監督に輝いたクラウディオ・ラニエリ監督が解任された。しかし助監督から昇格したクレイグ・シェークスピア監督が指揮を執り始めると、一気にチーム状況は激変した。2月27日のリバプール戦にエースのジェイミー・ヴァーディーの2ゴールで3―1と勝利すると、そこからまるで時計の針を戻したかのように強さを取り戻した。トータルイレブン編集部では、 “ミラクル・レスター”の劇的な復活劇を検証する。

 4月4日のサンダーランド戦、0-0の69分に途中出場のMFオルブライトンが上げた左サイドからのクロスを、FWスリマニが相手DFとの競り合いを制してヘディングで決めて先制。さらに78分にはセンターライン付近でボールを奪ったMFオルブライトンが一気にドリブルで運ぶと、早めのタイミングで中央へグラウンダーのクロス。これがヴァーディーにつながると、エースが正確なトラップから強烈な左足のシュートをたたき込み、試合を決定づけた。オルブライトン、スリマニと交代出場の2人が試合を動かす大きな仕事をするあたりは、昨季の後半、ヴァーディーの出場停止で出番を得たアルゼンチン人FWウジョアが活躍したような好循環を思い出させた。

 今シーズンのレスターは、昨年MVP級の活躍をみせたフランス代表MFエンゴロ・カンテがチェルシーに移籍。したが、アーセナルからオファーがあったヴァーディー、バルセロナの補強候補にも挙がったマフレズの両エースが残留し、大きな戦力ダウンはないとみられていた。しかしそんあ希望的観測は、大きく裏切られた。カンテの代役として中盤でドリンクウォーターとコンビを組むセントラルMFには、レスターが08-09年に3部リーグを戦っていた際から在籍しているチーム最古参のMFアンディ・キングや、“ニューカンテ”の触れ込みで新加入したフランス人MFメンディ、さらにガーナ代表MFアマーティーらが務めたが、そもそも守備力や運動量に関しては世界でもトップクラスのカンテと、同じ役割を果たせるはずはなかった。

 そんな穴を埋めようと、他の選手は昨年以上のプレーをしようと奮闘した。しかし、昨季はゴールを量産したヴァーディーは、中盤でボールを次々と拾い続けてカウンターの起点となっていたカンテの不在により、このイングランド代表FWのスピードを生かした縦に速い攻撃の頻度が減ったことで魅力が半減。さらにアルジェリア代表MFマフレズは、思うようにチームが攻撃を構築できないことで、ボールを持つ悪い癖が目立つようになり、さらに攻撃の停滞を生んでしまった。両エースが昨季のようにゴールを奪えないことで、チームはさらに悪循環に陥った。ラニエリ監督は昨季、岡﨑慎司をヴァーディーと2トップで組ませ、献身的にチームのための守備をいとわない日本代表FWを“最前線のDF”として起用していた。今季も序盤は岡﨑がスタメンの試合が多かったが、攻撃の迫力を加えるために、ナイジェリア代表FWムサや、新加入のアルジェリア代表FWスリマニをヴァーディーと組ませる試合も増えた。しかしどの形も昨季のような破壊力にはつながらず、岡﨑を欠いて守備陣には負担がかかる一方だった。

さらにチーム状況を顕著に表していたのは、岡崎がラニエリから受けた「ロングシュート禁止令」だ。2016年9月10日に行われたリバプール戦、岡﨑はロングシュートを放ったがゴールは奪えず、試合は1―4で敗れた。その試合後、指揮官から「去年ならあの場面で無理なロングシュートは打たず、パスを出していただろう。余計なことはするな」と言った趣旨の叱責を受けたと言う。岡﨑は自身がもっと成長するために、ストライカーとして得点力のアップという点を挙げていただけに「シュートを打つな」というラニエリの言葉は、受け入れられないといった素直な気持ちを語っていた。しかし指揮官の心の中を推察すると、チームのひとりひとりが、何とかしようと強く思いすぎていたことで、自分の能力以上のプレーを繰り返していたことが気になったのだろう。結局、ラニエリは3バックに着手するなど、さまざまな方法でチームの立て直しを図ったが、昨年の優勝からわずか9か月で退任することになった。

しかし後任のシェイクスピア監督は、就任直後の9月22日・リバプール戦から、スタメンにヴァーディー、岡﨑を2トップに置いた「原点回帰」を強調し、堅守速攻の戦い方をチームに思い出させた。さらにラニエリ解任という“劇薬”の投与を受けた選手たちの目の色も変わった。ヴァーディー、岡﨑のコンビは前線から猟犬のごとくボールを追い回し、守備陣もラインを低く設定してゴール前の最も危険なスペースではしっかりと体を張って跳ね返すという、昨季のスタイルを取り戻した。さらに大きかったのは、冬の移籍でベルギー・リーグのヘンクから加入したナイジェリア代表MFウィルフレッド・ディディが、カンテの代役として中盤のポジションで機能し始めたことだ。この弱冠20歳の新鋭は、187センチという恵まれた体躯を生かした守備力に加え、4月1日のストーク戦でリーグ戦初ゴールを奪った際にみせたようなパンチ力あふれる右足のミドルシュートという武器も持っている。スピードと機動力にあふれたカンテとはタイプが違うが、中盤の幹としてチームに安定感をもたらす存在となっている。

去年の戦いを思い出し、4日のエバートン戦での敗戦まで公式戦6連勝を飾ったレスター。しかし岡崎は、調子を取り戻したチームの中でも、昨季と少し違うプレーを見せている。昨季は2トップの一角として、攻撃面では主にヴァーディーを狙ったボールのこぼれ球を拾いまくることに集中していたが、今季はFWというよりはほとんどトップ下に近いポジションで、後方からの縦パスをおさめて攻撃の起点となるプレーを増やしている。まるで日本代表のチームメート、ドルトムントの香川真司を参考としているかのように、敵の間でボールを受けるプレーだ。ラニエリにロングシュートを“禁止”され、成長への意欲に水をさされるといった経験もした岡﨑だったが、それでもまだまだ上達へのどん欲な思いはなくしていない。

この連勝でプレミアリーグの降格争いからは完全に脱出して11位まで順位を上げ、トップ10入りが見えてきたレスター。さらにチャンピオンズリーグ(CL)ではやや組み合わせに恵まれたこともあってベスト8に勝ち残っており、4月12日にはアトレチコ・マドリードと準々決勝のファーストレグを戦う。バルセロナやレアル、バイエルンにユベントスなど順当にビッグクラブが勝ち残った印象のあるCLで、“ミラクル・レスター”にダークホースの香りも漂い始めた。