新生マリノス「脱・俊輔」の是非を問う

ジュビロに移籍した元日本代表MF中村俊輔の古巣対決として注目が集まった4月8日の横浜Fマリノス対ジュビロ磐田戦。この試合は2-1でホームのマリノスが勝利をおさめた。計13年間マリノスに在籍し、昨季までは主将も務めた俊輔からキャプテンマークと背番号10から受け継いだマリノスMF斎藤学が、2アシストでチームを勝利に導いたこの試合から、俊輔放出に伴うチーム若返りの是非を検証する。

この試合で最も輝いたのは、間違いなく斎藤だった。
26分は左サイドをドリブルで切り裂き、逆サイドから中央へ入ってきたMFマルティノスへ完璧なクロスを届けて先制ゴールをお膳立て。その後、ジュビロも俊輔のコーナーキックからDF大井が決めて追いついた。しかし73分、斎藤は中盤でボールを受けると、ふわりとした右足のパスを前線に残っていたDF金井に届けて決勝ゴールをアシスト。
ドリブルでの突破力に定評がある斉藤だが、俊輔が去ったチームに置いては攻撃の全権を握る存在として、サイド、真ん中と神出鬼没なポジションチェンジも見せ、さらなる進化の兆しをみせている。

試合後には俊輔とユニホームを交換した27歳のアタッカーは「ひとりひとりが走って、勝てたっていうのは、本当にうれしいですけど、もっともっと良いゲームできると思うし、ぼくらはもっと強くなれると思います。この勝ちで流れに乗って、優勝していきましょう!」と興奮気味に語るなど、この一戦への思いの強さを感じさせた。

マリノスは昨季まで俊輔の定位置だったトップ下を、今季は新加入した23歳のMFバブンスキーが務めている。バルセロナの下部組織出身のマケドニア代表MFは、シンプルなボールタッチで縦にボールを動かし、1トップのFWウーゴ・ヴィエイラ、斎藤、マルティノスの両サイドと共に、ゴール前に侵入するプレーが多い。

今季開幕の浦和戦で決めた、後方からのパスをダイレクトで合わせたスーパーゴールも印象的だった。司令塔タイプというよりはセカンドストライカーと言えるプレーヤーだ。一方、試合を組み立てる役割は、ボランチのMF天野が務めている。マリノス下部組織育ちの25歳は、俊輔と同じくレフティーでセットプレーのキッカーも務め、中盤低めの位置から正確なパスで攻撃にリズムを作り出そうとしている。

2015年からマリノスを率いるエルク・モンバエルツ監督は、かつて俊輔をボランチで起用し、かつてユベントスで元イタリア代表MFアンドレア・ピルロが務めたような低い位置からの試合の組み立て役をまかせようとした時期があった。しかし俊輔がトップ下のポジションにこだわりをみせたこともあり、この構想は定着しなかった。

その後このフランス人指揮官は、斉藤らサイドアタッカーのスピードを生かしたショートカウンターをチームの中心戦術として取り入れた。そうなるとトップ下の選手の役割は、サイドのスピードに遅れることなくペナルティーエリア内に侵入し、ゴールに絡む仕事をすることになる。決して縦に速いタイプではない俊輔は、トップ下の選手としては物足りなかったのかもしれない。

俊輔、そして右サイドバックとして長くチームを支えたDF小林(鳥栖へ移籍)らが去ったマリノスは、よりモンバエルツ監督のカラーを押し出したチームになった。

センターバックでは今季から加わったセルビア出身のオーストラリア代表DFデゲネク(22歳)が中沢とコンビを組み、右サイドバックは新潟から獲得した松原(24歳)が務めるなどチームは若返りをみせ、ジュビロ戦の先発はDF中沢(39歳)とGK飯倉(30歳)を除き、全員が20代。
もちろん経験豊富なベテランには、試合を読む力や、気の利いたプレーなど、決して若手にはない味がある。一方で若い選手には、ベテランにはない走力、そして何より回復力がある。縦に鋭い攻撃、そして前線からはめ込むようなアグレッシブ守備には、スピードと持久力が必要となり、加えてそのインテンシティー(強度)をどれだけ多くの試合で維持できるかが鍵を握ってくる。

偉大なナンバー10が去り、ひとつの時代が終わりを迎えたマリノス。イングランドのマンチェスター・シティーなど傘下に持つシティー・フットボール・グループとの業務提携も結んでいるトリコロールの名門クラブは、日本代表でハリルホジッチ監督が目指しているのと同じく、高い位置でボールを奪い、少ない手数で攻めるといった世界のサッカー界でもはや常識となりつつある方法論を軸に、新たなチームをつくろうとしている。その点だけで言えば、中村放出は理論的には正しい。

しかしこれまでチームの中心を担ってきた希代の司令塔を放出した意味は、サポーターの感情論も考えると大きな痛みを伴った決断だった。

下部組織出身でチーム愛にあふれた斎藤を絶対的なエースに据え、同じく下部組織出身のボランチ・喜田や天野らがチームの中心となった新生マリノスが、これからどういった結果を残すのか。チームが再びタイトル争いに加わるような強さを取り戻せるかどうか、今後の動向に注目が集まる。